医療の高度専門化の弊害

専門医は必要である。しかし専門医ばかりでは医療が成り立たない場合もある。高齢者医療、救急、地域医療などである。それぞれについて詳しく書こうと思ったが、長くなるのでかいつまんで。

まずは高齢者医療。高齢者は大抵の場合、多疾患を抱えている。糖尿に高血圧があって、膝・腰に痛みを抱え心肺機能が衰え認知症状も出てきているという具合だ。(失礼であるが)何しろ高齢者だ。「専門治療を行ったとしても・・・」と考える専門医は少なくない。たとえそれぞれの専門医が真摯に診療にあたったとしても、加齢という運命には抗えず徐々に体力は劣っていく。(残酷な言い方だが)費用対効果は悪い。それゆえ大抵の場合、それぞれの専門医に「もう年だからね・・・」と言われ極々当たり前の治療のみに終わる。さらに、専門医は他の比較的若く高度専門医療を施すべき患者に力を注ぐため、高齢患者の他の疾患まで責任をもって診る余裕はない。診たいと思っても、専門外来で専門分野以外の検査や治療をすることは診療報酬の点で病院の損につながるため、専門外の診療は避けられる。よって高齢者は各専門医をはしごせざるを得ない。専門医ばかりの医療では、高齢者は満足した専門医療は受けられず、お金と労力が必要な冷たい医療となる。

次に救急。各分野の専門医が待機し重態の救急患者に高度専門医療を施す三次救急センターは各県に一つや二つはある。これは絶対に必要だろう。問題はその手前の二次救急だ。大抵の場合は地域の中核の総合病院がそれにあたる。二次救急病院では常時一人もしくは二人の当直医を配し、必要であれば各科の待機の専門医に連絡しその病院で可能な医療を施す。時に、満床であるとか待機のサポート医師が学会のため不在とか、救急患者がいっぱいで手が回らないなどで断られることがある。こういった理由なら、昨今の医師不足や超過勤務問題など考えると理解できる。しかし容認できないのは「当直医の専門分野でないから」と言って断られることだ。例えば消化器内科が当直の場合、心疾患が疑われる患者は受けないとか、整形外科が当直の場合は脳卒中を起こした患者は受けないとかである。救急患者の症状が当直医の専門分野に一致しないと救急といえども容易に受け入れてはくれない。以前、蜂アレルギーで循環動態が不安定になっている患者の受け入れを打診したのだが、「専門医がいないから」と断られた。蜂アレルギーの専門医とは一体何なんだ?と私はかみついた。医師研修の過程で、救急の初期対応はいかなる科の医者でも履修している。「専門ではないから」という言い訳は成り立たない。専門医が自身の専門分野の救急患者しか受け入れないのでは、救急医療システムは崩壊する。

最後に地域医療だ。地域医療の定義はいろいろある。在宅医療や地域諸機関との連携などを重視する方もいるが、私は上記の高齢者・救急医療を担うことが地域医療だと思っている。高度な専門医療を施せなくとも高齢患者の主治医として全人的に責任をもって診療にあたり、救急では自身の専門分野にとどまらず、外科であれ内科であれ、子供であれ高齢者であれ、あらゆる疾患の救急初期対応にあたる。こういったポリシーをもった病院が地域医療を担うべきであり、そこに求められるのは幅広い疾患対応能力を身につけた医師である。

が、医療はあまりにも進歩し、情報化社会のため一般の方の医療知識は深くなった。幅広く対応すれば浅くなる。浅くなると不信を招く。不信を招くと訴えられる。よって、高齢者・救急・地域医療の担い手は少なくなった。

写真は、上空からのディズニーワールド。夢の世界だけで生きていけたらいいのだろうが、この世は美しいものだけではない。現実は厳しい。

シャクゲバ

シャクゲバ=尺八を吹くゲバラ。この世の中を生き抜くには、この姿が必要と思いこの名前にした。日々感じることなどつづっていく予定。

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