何でもないこと2

学生の頃バスをよく利用していた。夕方の同じ時間帯に何度か駅のバスターミナルで同一行動をする自閉症児を見かけた。年のころは15歳前くらいの男性。バス停の時刻表を貼ってあるポストに向かって、ずっと上半身を前後に揺らしていた。手は胸の前で合掌し、時折右手で唇を触りプルプルならす。左手は胸の前に置いたまま。時に意味不明の「あーあー」という声を上げる。彼は独りではなかった。同伴者は彼より年長と思われる小太りの女性。ダウン症だった。その女性は同一行動はしていない。同一行動を続ける彼の半歩ほど斜め後ろで、首をやや右に傾けてうなだれた姿勢のまま。ほんの僅か体を左右に動かしていた。

バスが来るまでの5分くらいの間、二人の立ち位置は変わらず、互いに顔を見合わせての会話はなかった。そもそも二人とも人とコミュニケートする能力は乏しいだろう。バスのパスだろうか?二人とも首からよく似た身分証のようなものをぶら下げていた。特別支援学校か就業施設から二人連れで帰っているのだろう。女性が男性に同伴していると思われるが、本当に同伴者かどうか疑わしいほど互いの存在に無関心な感じだった。周囲の人は彼らを遠巻きにしてバスを待っている。彼ら二人に話しかける人はいない。むしろ気味悪がっているようにもみえる。

バスが来た。それを合図に斜め後ろにいたダウン症の女性がすっと男性の左横に出て、彼の顔を見るでもなく言葉をかけるでもなく、右手を彼の前に差し出した。するとそれまで同一行動を続けていた体の動きがピタッととまり、胸の前に掲げていた左手を前に差し出した。その差し出された男性の左手を女性が不器用に握った。二人が手をつないだ。それを合図に男性が体を左に向けバスに向かって歩き出し、女性が先に立ちバスに乗り込んだ。

負けるな。それだけの話。

写真はイブラヒム。今朝早くバスラに戻って行った。また来年会えますように。

シャクゲバ

シャクゲバ=尺八を吹くゲバラ。この世の中を生き抜くには、この姿が必要と思いこの名前にした。日々感じることなどつづっていく予定。

0コメント

  • 1000 / 1000