長兄のこと

町田その子の「宙ごはん」と凪良ゆうの「汝、星のごとく」を続けて読んだ。いずれの本も本屋大賞にノミネートされるだけあり読みやすい。また両者とも、毒親たちから与えられたトラウマに潰されまいと悪戦苦闘し昇華していきながら物語が進行していく。父親に潰されてしまった長兄をもつ私としては興味深かった。

毒に潰されてしまわないためには、毒を断ち切るか毒に曝されながらも受容するかの二つだ。しかし一度体に染みついた毒は容易には体から抜けない。父親からの毒に曝された私の長兄は中学頃から荒れだし、高校卒業後家は東京に出て10年ほどは音信不通になった。まずは父との関係を断ち切ろうとしたわけで、それは正しい選択だったと思う。その断交を継続し自立した社会人として父親と対峙できていたなら、体に染みついた毒を一掃することもできただろう。残念ながらそうはならなかった。彼はバイトで稼いだお金をタバコ・お酒・パチンコに費やしていた。父親の下を離れた花の都は誘惑が多かったわけだ。その結果、30半ばにして糖尿病を発症し神経障害と難聴が一気に進行し働けなくなった。そこから20年余りの彼は悲惨であった。彼は父親に対峙する体力のないまま自ら田舎に帰り、完全に毒に浸りきった。経済的に父親に依存するしかなかったのだ。体調がいくらか回復したときは父親を受容しようという言動もみられたが、たいていは「俺がこうなったのはお前らのせいや!」と父と後妻さんに恨み言をならべたてていた。毒をもった相手に毒の効果を晒していたのだ。パチンコとお酒は止めたものの1日2箱のタバコをやめられなかった。まだ彼の体力が残っている時に、父親から逃れるために「いくらか資金を出すから、また都会に出てはどうか」と提示したが受け入れなかった。何かは言わなかったが「まだ俺はやりたいことがあるんだ。このままで終わる気はない」と言いながら同じ生活を続け、徐々に糖尿病の合併症と脳血管障害が進行していった。最終的には大腸癌も発症しそれがもとで亡くなった。残ったスマホに、かつて元気だった時に夢を抱いていたであろう所に散骨してほしいとか、家のお墓には入れないでくれという遺言があった。

因みに、彼のとどめとなった大腸癌を私は見落とした。医療過誤として訴えられれば確実に負けてしまう事例だ。けっして故意ではなかったのだが、未必の故意の意図があったのではないか?と問われれば否定できない。少なくとも職務怠慢の罪はある。彼は、父親と弟に潰されたのだ。

シャクゲバ

シャクゲバ=尺八を吹くゲバラ。この世の中を生き抜くには、この姿が必要と思いこの名前にした。日々感じることなどつづっていく予定。

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