前々項で書いた「本来なら全人的医療を提供すべき医療機関さえもが責任を回避する方向に走っている」について。 これは地域中核病院と呼ばれる、第二次医療圏の中核で地域医療を支える役割をもつ病院を念頭においている。高度機能病院は専門医療に特化すればよいだろう。また、かかりつけ医となる開業医や診療所の医師はできるだけ全人的医療を提供するというわかりやすい役割がある。問題はその中間に位置する地域中核病院の働きである。地域中核病院はかかりつけ医と高度機能病院のはざまに位置しており、両者の穴埋めができれば地域として隙のない医療サービスを住民に提供できる(図左)。
しかし地域中核病院が提供すべき医療サービスは、病院規模やポリシー・地域のニーズ、そして地域の他の医療機関や介護施設の充実度によって左右され一定していない。例えば過疎地で高齢化率が高くかかりつけ医や老健施設が不足している地域と、都市部で開業医や往診診療・老健施設がたくさんある地域とでは中核病院が果たすべき役割は異なる。地域の実情を鑑みて専門医療を中心に行うか、全人的医療もある程度提供するかを考えねばならないのだが、概して全人的医療よりも専門医療に特化したがる傾向がある。その結果、総合診療医の知識では不十分なやや専門的な医療が必要な高齢患者の多くが行き場を失う(図右)。
なぜ中核病院が専門医療に特化したがるかと言えば、一つは収益の観点からである。多疾患を合併した高齢者が多くなると入院期間が延びる。つまり回転率が悪くなる。そして診療報酬は入院期間が延びると基本点数が下がるシステムがある。よって高齢者医療を対象とすると、回転率と患者一人当たりの単価が下がり、病院の収益率は低下する。高齢者対象の全人的医療を提供するより、専門医療を提供した方が儲かるのだ。
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