公的病院を含めた地域中核病院が、収益率を上げるために長期療養が必要な高齢者を締め出すと、全人的医療と専門医療のはざまで高齢者は行き場をなくす。行政が何もしていないわけではない。かかりつけ医制度の導入や在宅医療あるいは老健施設の拡充を図っている。確かに、地域中核病院を下支えする施設をテコ入れすれば、高齢者の老いをめぐる環境は改善する。例えば在宅診療所を増やしている。これは在宅のままあるいは介護サービス付き高齢者専門住宅に高齢者を住まわせ、介護保険で介護サービスをうけながら訪問診療・訪問看護で医療サービスを提供するものである。もちろん従来の老健施設に介護保険を使って高齢者を入所させ、常駐する看護師あるいは介護士により最低限の医療サービスを提供する形もある。かつて老人病院と呼ばれたところで医療費を使い、長期の入院の上終末を迎えていた高齢者の終末期は変化してきている。
介護サービスを拡充することで、就業の場が創出され失業対策になる。あるいは在宅医療を推進することで、在宅死を望む患者にとっては有益である。そして何より湯水のごとく使っていた高齢者医療費は抑制される。しかしながら、これらの施策の主目的は医療保険を使っての高齢者医療、中でも長期になりやすい高齢者の入院費を削減することである。よって下支えのシステムをいかに充実させても、入院加療が必要でそれを望む高齢患者を満足させることはできない。
現在はまだ過渡期なのかもしれない。生の終末を迎え、それを受容し安心して終の棲家に向かえることなく、不安を抱え種々の医療機関を巡っている高齢者がたくさんいる。
写真は5月10日のKさん。時に老健施設でバイオリンの演奏をしてくれている。ありがとう。
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